欧州の王位継承はどんな具合なのか、朝日新聞が、関東学院大学の君塚直隆教授(英国政治外交史)にインタビューしている記事がありました。
男系男子にはこだわらない。興味深いです。
戦後広がった女性への王位継承権
――欧州にも君主制の国々は多いですが、王位継承の仕組みはどのようになっているのでしょうか?
日本の皇室では皇室典範により、皇位の継承は父方に天皇の血を引く「男系男子」のみと定められています。
欧州もかつてはほとんどの国で、女性は王位に就けませんでした。中世以来の法律で王位継承権は「男系男子」に限られていましたし、世の中の価値観として「女性は家庭、男性は外で仕事」という考えが根強かったことも大きいです。
ところが、2回の世界大戦を通じて状況が大きく変わります。第1次世界大戦では欧州の国々も国家総動員態勢となり、女性も勤労動員にかり出されました。第2次世界大戦では女性が徴兵されることもありました。こうした経緯から、「男女同権」が強く意識されるようになり、戦勝国か敗戦国かは関係なく、女性の参政権も広がっていきます。
こうした男女同権の考えが広がる中、デンマークでは1953年、それまで男系男子にしか認められなかった王位継承権が女子にも与えられるようになりました。当時の国王フレデリック9世とイングリッド王妃との間には3人の娘がいましたが、息子はいませんでした。また、フレデリック9世国王には弟がいましたが、この弟の一家は国民からの人気があまり高くなかった。こうした経緯もあり、53年に憲法と王位継承法が改正され、フレデリック9世の長女であるマルグレーテ2世が王位継承順位1位となりました。その後、1972年に女王に即位し、現在に至ります。
ただし、53年の改正で女子にも王位継承権が認められましたが、国王の子どもに男子と女子がいる場合は男子が王位に就く「男子優先」でした。
――他の欧州の国々はどうですか?
デンマークのお隣のスウェーデンでは1979年の法改正で、それまで男子にしか認められなかった王位継承権を、男女関係なく第1子が優先して王位継承する「長子優先」に変えました。欧州で初めてでした。
スウェーデンの現国王であるカール16世グスタフには当時、第1子の長女ビクトリア王女と第2子の長男カール・フィリップ王子の2人のお子さんがいました。法改正前はカール・フィリップ王子が王位を継ぐはずでしたが、法改正により長女のビクトリア王女が王位継承順位1位の皇太子となりました。
男女同権意識の高まりと、安定的な王位継承
――変更が実現した背景には、男女同権意識の高まりが大きかったのでしょうか?
もちろんそれは大きいですし、あとは安定的な王位継承という目的もあります。
イスラム圏の君主制の国々では、現在でも王位継承権は男系男子に限るのが一般的です。ただ、これは一夫多妻制を前提としています。一夫一妻制の下で王位継承権を男系男子に限ると、どうしても王位継承者がいなくなるという事態は起こりやすく、王室の存続に関わってきます。
スウェーデンが王位継承権を男女平等にしたのを皮切りに、83年にオランダ、90年にはノルウェー、91年にはベルギーが男女関係なく長子優先となりました。オランダはそれまでも女性が王位に就くことはできましたが、男子優先でした。ノルウェー、ベルギーに関しても男子のみに認められていましたが、女子にも継承権を与えるのと同時に長子優先としました。また、53年に女子にも王位継承権を認めたものの男子優先だったデンマークも、2009年に長子優先に移行しています。
一方、ヨーロッパ大陸の多くの国々とは違い、英国ではもともと女性も王位に就くことができました。例えば、16世紀のイングランドの君主であるエリザベス1世や19世紀のビクトリア女王などが有名です。当時は男子優先だったのですが、2013年には英国も男女関係なく第1子が王位を継承する長子優先に変わっています。